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2013
06.13

最後の夏

Category: 未分類
三浦哲郎先生が亡くなられて一年が来るんですね。早いものです。
十数年前、先生が軽い脳梗塞で江古田の鈴木病院に入院される前から昨年亡くなられるまでの間、年に七・八回ぐらいでしょうか、先生のお宅に伺い、作品を読んでいただいておりました。
先生はまだお元気で、たしか『肉体について』の連載を始めになったころだった思います。先生に本を出しませんか、と突然言われたことがあります。その時、私は先生の真意がよく理解できませんでした。何作かの作品を読んでいただいておりましたので、先生は、単に人生のけじめような意味でおっしゃった、と私は思ったのです。
昨年の七月、先生が亡くなられる一ヶ月程前のことです。先生は居間に持ち出したベッドに横になっていました。『おふくろの夜回り』が出た直後でした。
私が枕元にすわると、
「今度、これが出た。」
先生は大変嬉しそうに本を取り出して、
「筆は持てないから署名無しで・・。」と言って、本をくださいました。
「今年は、なんとしても山へ行くぞ。暑いのは苦手だ。」
先生は元気な声でそうおっしゃったのにはびっくりしました。東京は猛暑の盛りでした。
山へ行くとは、八ヶ岳の山荘へ行くという
ことです。先生は故郷を思い出すのか、ことのほか山が好きだったようです。
「そうですね、今年こそはぜひ山へ行きましょう。」と、私が答えると、先生は、枕から頭を持ち上げ、にっこり笑っていました。山行きを言い出した先生の顔は色艶もよく、すこぶる元気でした。何故か、私は安心をしたものです。
「ご予定がお決まりになりましたらご連絡をください。なんとか都合をつけますから。」と言いますと、先生は安堵(あんど)したように、
「わかった、今から楽しみだ。」
私が住んでいる清里と先生の山荘がある野辺山とは近隣の高原です。飼い犬の五郎君も一緒だったせいで、私が山への送り迎いを受け持っていたのです。
あの時に見せた先生のご様子からは、とてもひと月後に亡くなるなんて考えられないことでした。今度の作品はいいね、と言われる一編を何とか書きたいと思いながら先生の元に通い続けてきたのです。それだけに先生の不在はなんとも言いようのない空白感でいっぱいです。
「山へ行くぞ。」
先生の張りのある元気な声が、いつまでも私の耳の底に残っています。
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